「オキシドールを使えば、安く簡単に髪の毛の色を抜くことができる」という噂を耳にしたことはありませんか? 市販の脱色剤を買うよりも手軽で、なんとなく理科の実験のようで試してみたくなるかもしれません。しかし、美容のプロとして結論から申し上げますと、この方法は絶対に推奨できません。 確かにオキシドールで髪色は変わりますが、それは「脱色」というより「破壊」に近い現象だからです。この記事では、オキシドールが髪に及ぼす化学的なメカニズム、市販のカラー剤との決定的な違い、そして取り返しのつかないダメージのリスクについて、専門的な視点から徹底解説します。
この記事のポイント
- オキシドールで髪色が明るくなるのは、過酸化水素によるメラニン色素の強制的な酸化分解が原因
- 美容室のカラー剤と異なり、髪を保護する成分や浸透を助けるアルカリ剤が含まれていない
- オキシドール脱色は色ムラになりやすく、髪が溶けたりちぎれたりする深刻なダメージを招く
- 一度オキシドールで傷んだ髪は修復不可能であり、最悪の場合は切るしかなくなる
オキシドールで髪の毛を脱色する危険性とメカニズム
オキシドールを髪に塗ると、なぜ色が明るくなるのでしょうか? また、なぜ美容師はそれを全力で止めるのでしょうか? ここでは、オキシドールが髪の内部で引き起こす化学反応と、それに伴うリスクについて、毛髪科学の観点から詳しく解説します。
単に「傷むからダメ」という精神論ではなく、論理的な理由を知ることで、正しい判断ができるようになります。
- オキシドールで髪色が抜ける化学的な仕組みとは
- 美容室のカラー剤と消毒用オキシドールの決定的な違い
- 髪への深刻なダメージと頭皮トラブルのリスク
- 失敗事例から学ぶ色ムラや変色の可能性
オキシドールで髪色が抜ける化学的な仕組みとは

オキシドール(過酸化水素水)が髪の色を変える主たる要因は、その強力な「酸化作用」にあります。髪の黒色や茶色を構成しているのは「メラニン色素」というタンパク質ですが、過酸化水素はこのメラニン色素の構造を破壊(酸化分解)する性質を持っています。
具体的には、オキシドールを髪に塗布し、長時間放置したり、日光(紫外線)やドライヤーの熱を与えたりすることで、過酸化水素(H₂O₂)が分解されて水(H₂O)と酸素(O)になります。
この時に発生する「活性酸素」が、髪内部のメラニン色素を攻撃して色を退色させます。これが、いわゆる「オキシドールで髪が茶色くなった」という現象の正体です。
しかし、これは美容室で行う計算されたブリーチ(脱色)とは似て非なるものです。美容室のブリーチ剤は、過酸化水素の働きをコントロールし、効率よく髪の内部に作用するように設計されています。
一方で、単体のオキシドールにはそのような制御機能がありません。そのため、本来壊すべきではない髪の構造タンパク質(ケラチン)までもが無差別に酸化され、破壊されてしまいます。
色が抜けるのと引き換えに、髪の毛としての強度や弾力、保水機能が失われるプロセスが同時に進行しているのです。結果として、髪は内部からスカスカになり、切れ毛や枝毛が多発する脆弱な状態へと陥ります。
オキシドール脱色のプロセス
- 過酸化水素が髪に付着する
- 紫外線や熱などの刺激により分解が進む
- 発生した活性酸素がメラニン色素を破壊する
- 同時に髪の主成分であるケラチンタンパク質も破壊される
美容室のカラー剤と消毒用オキシドールの決定的な違い

「美容室のカラー剤にも過酸化水素(オキシ)が入っているのだから、薬局のオキシドールと同じでは?」と考える方がいますが、これは大きな誤解です。確かに主成分は同じ過酸化水素(H₂O₂)ですが、その「配合目的」「濃度」、そして何より「周辺成分」が全く異なります。
以下の表をご覧ください。
| 項目 | 消毒用オキシドール(第3類医薬品) | ヘアカラー用オキシ(医薬部外品・第2剤) |
|---|---|---|
| 主成分 | 過酸化水素(約2.5〜3.5%) | 過酸化水素(主に〜6%) |
| その他の成分 | 精製水、安定剤(フェナセチン等) | 界面活性剤、油分、保湿剤、pH調整剤など |
| 液性(pH) | 酸性 | 酸性(1剤と混ぜてアルカリ性にする) |
| 粘度 | サラサラの液体(水状) | クリーム状、乳液状 |
決定的な違いは「アルカリ剤」との組み合わせです。通常のヘアカラーは、1剤(アルカリ剤)と2剤(過酸化水素)を混ぜることで化学反応を起こします。アルカリ剤が髪表面のキューティクルを開き、薬剤を内部へスムーズに浸透させると同時に、過酸化水素の分解を促進させます。
しかし、消毒用オキシドール単体にはこのアルカリ剤が含まれておらず、液性も酸性です。酸性の状態ではキューティクルが閉じたままであるため、薬剤が内部に浸透しません。そのため、無理やり色を抜こうとすると、長時間放置したり、ドライヤーで熱を加えたりする必要が出てきます。
このように、キューティクルが閉じた状態で外側から強引に酸化作用を与え続ける行為こそが、髪表面をボロボロにする最大の原因なのです。
髪への深刻なダメージと頭皮トラブルのリスク

オキシドールを使用した脱色が引き起こすダメージは、市販のブリーチ剤の比ではありません。最大の問題は「過乾燥(オーバードライ)」と「タンパク変性」です。前述の通り、オキシドールには髪を保護するエモリエント成分(油分)や保湿剤が一切含まれていません。
水と過酸化水素だけの液体を長時間髪につけ、さらにドライヤーで乾かすという行為は、髪内部の水分を強制的に蒸発させ、パサパサの藁(わら)のような状態にします。
さらに、頭皮へのリスクも無視できません。消毒用オキシドールは、本来傷口に一瞬使用してすぐに拭き取るものです。これを頭皮に長時間付着させたままにすると、高濃度の活性酸素が頭皮の細胞を直接攻撃します。
これにより、激しい痛み、炎症、ただれ、フケ、さらには「接触性皮膚炎」を引き起こす可能性が極めて高くなります。
また、頭皮にある色素幹細胞が活性酸素によるダメージを受けると、将来的に白髪が増えるリスクがあるとも言われています。頭皮の健康が損なわれると、次に生えてくる髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたりする原因にもなりかねません。
「安く髪を明るくしたい」という軽い気持ちが、将来の薄毛や白髪のリスクを高め、取り返しのつかない頭皮トラブルを招く可能性があることを深く理解しておく必要があります。
失敗事例から学ぶ色ムラや変色の可能性

オキシドール脱色を試みた多くの人が直面するのが、「色ムラ」と「汚い発色」という失敗です。これには物理的な理由と化学的な理由の2つがあります。
まず物理的な理由として、粘度の問題があります。美容室のカラー剤はクリーム状で髪に留まりますが、オキシドールは水のような液体です。塗ったそばから垂れてしまい、特定の場所にだけ液が溜まったり、逆に行き渡らなかったりします。
その結果、ある部分は金髪に近いほど色が抜け、ある部分は黒いままという、通称「トラ柄」や「ブチ模様」と呼ばれる状態になりやすいのです。
次に化学的な理由として、メラニン色素の性質が挙げられます。日本人の髪に含まれるメラニンには、黒〜茶色の「ユーメラニン」と、黄〜赤色の「フェオメラニン」の2種類があります。
過酸化水素による分解では、黒いユーメラニンが先に壊れやすく、赤みの強いフェオメラニンがしぶとく残る傾向があります。オキシドール単体のような非効率な脱色では、この赤み成分を分解しきれず、きれいなベージュやアッシュにはなりません。
結果として、メラニンの赤みだけが汚く残った「赤錆(あかさび)のようなオレンジ色」になりがちです。
さらに恐ろしいのは、一度ムラになった髪は、後から美容室で修正しようとしても非常に困難だという点です。ダメージレベルが場所によってバラバラであるため、通常のカラー剤を使っても色が均一に入らず、美容師にお断りされてしまうケースも珍しくありません。
髪の毛の健康を守るための正しい知識とケア方法
「もうやってしまった」という方や、「それでもどうしても安く明るくしたい」と迷っている方に向けて、現実的なアドバイスと代替案を提示します。オキシドール脱色の代償がいかに大きいか、そして万が一ダメージを受けてしまった場合にどのような対策が必要か、プロの視点で解説します。
- オキシドール使用後の髪は修復不可能である理由
- 安全に髪色を明るくするための代替案と推奨方法
- ダメージを受けた髪に必要な緊急ヘアケア対策
- 美容師がオキシドール脱色を絶対におすすめしない理由
オキシドール使用後の髪は修復不可能である理由

非常に残念な事実ですが、一度オキシドールによって破壊された髪の構造は、どんなに高価なトリートメントをしても元には戻りません。髪の毛は爪と同じく「死滅細胞」であり、皮膚のように自然治癒力や再生機能を持たないからです。
オキシドールは髪の表面にあるキューティクルを溶かし、内部のコルテックス(タンパク質の束)の結合を切断し、中身をスカスカの状態(多孔質毛)にしてしまいます。ここまで進行すると、髪は水分を保持することができなくなります。
市販や美容室のトリートメントは、あくまで髪の表面をコーティングして「手触りを良くする」あるいは「内部に擬似的な成分を補う」ものであり、破壊された結合を再びつなぎ合わせることはできません。
特にオキシドールで過度に傷んだ髪は、濡れるとテロテロに伸びてゴムのようになり、乾くとチリチリに広がる「ビビリ毛」と呼ばれる状態になることがあります。この状態になると、パーマも縮毛矯正もカラーも一切できなくなります。
唯一の解決策は、傷んだ部分を物理的にハサミで切ることだけです。「髪が伸びるまで数年間、バサバサの髪で過ごす」という大きなリスクを負ってまで、数百円の節約をする価値があるのか、冷静に考える必要があります。

安全に髪色を明るくするための代替案と推奨方法


もし、予算をかけずに髪を明るくしたいのであれば、オキシドールではなく、ドラッグストアで販売されている「市販のヘアカラー剤(医薬部外品)」を使用することを強く推奨します。
「市販のカラー剤も傷む」と言われますが、オキシドール単体の使用に比べれば、その安全性と仕上がりは雲泥の差です。
現在の日本の薬機法に基づいて製造されている市販のヘアカラー剤は、pHバランスが調整されており、毛髪保護成分や色持ちを良くする成分が配合されています。特に近年主流の「泡タイプ」や「乳液タイプ」は、初心者でもムラなく塗りやすいように粘度が調整されており、液だれの心配も少ないです。
数百円〜千円程度の出費で、オキシドールよりも遥かに安全に、そして何倍もキレイに髪色を変えることができます。
もちろん、最も安全で確実なのは美容室での施術ですが、どうしてもセルフで行う場合は、必ず「ヘアカラー用途」として作られた製品を選んでください。餅は餅屋、髪の脱色は専用の薬剤を使うのが、結果として最もコストパフォーマンスが高く、髪への負担を最小限に抑える方法です。
また、使用前には必ずパッチテストを行い、アレルギー反応が出ないかを確認することも忘れないでください。
ダメージを受けた髪に必要な緊急ヘアケア対策


万が一、オキシドールを使用して髪が傷んでしまった場合、直ちに行うべきケアがあります。まずは、髪に残っている過酸化水素やアルカリ成分(もし重曹などを混ぜていた場合)を完全に除去することです。
これらが髪に残っていると、ダメージが進行し続けてしまいます。通常のシャンプーでは落ちにくい薬剤残留物を除去するため、炭酸シャンプーや「ヘマチン」という成分が配合されたシャンプーを使用するのが効果的です。
ヘマチンには残留薬剤を除去し、髪の補修を助ける働きがあります。
次に、失われた油分とタンパク質を徹底的に補給する必要があります。髪の主成分である「ケラチン」や、髪の接着剤の役割を果たす「CMC(細胞膜複合体)」が配合された集中補修トリートメントを毎日使用してください。
また、お風呂上がりには必ず洗い流さないトリートメント(ヘアオイルやヘアミルク)をたっぷり塗布し、ドライヤーの熱や摩擦から髪を守るコーティングを施すことが必須です。
ただし、これらはあくまで「延命措置」に過ぎません。オキシドールでダメージを受けた髪は、少しの摩擦でも切れ毛になりやすいため、ブラッシングは優しく行い、枕カバーをシルク製にするなど、物理的な刺激を極力避ける生活を心がけてください。
そして、できるだけ早く美容室で傷んだ部分をカットしてもらうことをお勧めします。
美容師がオキシドール脱色を絶対におすすめしない理由


私たち美容師がオキシドール脱色を止める最大の理由は、お客様の「未来のヘアスタイルの可能性」を奪ってしまうからです。美容師は、お客様の髪をただその場限りで染めるだけでなく、半年後、1年後の髪の状態まで見据えて施術プランを立てています。
オキシドールで無秩序に傷めつけられた髪は、薬剤に対する反応が予測不能になります。例えば、将来「素敵なパーマをかけたい」「流行の透明感あるカラーにしたい」「縮毛矯正でサラサラにしたい」と思ったとき、過去にオキシドールを使用した履歴があるだけで、施術をお断りせざるを得ないケースが多々あります。
無理に施術をすれば、髪が耐えきれずチリチリになったり、断毛したりするリスクが極めて高いからです。
「たった一度の実験」が、その後数年間にわたって、あなたのやりたい髪型を諦めさせる原因になってしまいます。髪の履歴はリセットできません。プロとしては、一時的な好奇心や安易な節約のために、大切な髪の資産価値をゼロにしてほしくないのです。
髪はあなたの印象を左右する大切なパーツです。どうか、実験材料としてではなく、体の一部として大切に扱ってください。
総括:オキシドールによる脱色は百害あって一利なし。髪の寿命を縮める危険な行為である
この記事のまとめです。
- オキシドールでの脱色は、メラニン色素だけでなく髪の構造そのものを破壊する行為である
- 消毒用オキシドールは酸性であり、髪のキューティクルを開く力がなく浸透効率が悪い
- 効率が悪いため長時間放置することになり、結果として深刻な乾燥とダメージを招く
- 美容室の薬剤に含まれる保護成分や保湿剤が一切ないため、髪がバサバサになる
- 液だれしやすく均一に塗れないため、汚い色ムラや「逆プリン」状態になりやすい
- 頭皮への刺激が強く、化学熱傷や接触性皮膚炎、将来の薄毛の原因になるリスクがある
- 一度オキシドールで破壊された髪(ビビリ毛)は、トリートメントでは二度と元に戻らない
- オキシドールによるダメージ毛は、パーマや縮毛矯正、次回のカラー施術が不可能になることが多い
- 市販のヘアカラー剤は医薬部外品として安全性が考慮されており、オキシドールより遥かに安全である
- 髪の脱色は「酸化作用」だけでなく「アルカリによる浸透」と「保護」のバランスが重要である
- 節約のつもりが、修正のための美容室代やトリートメント代で逆に高くつく結果になる
- 髪は死滅細胞であり、自己修復能力がないため、一度の失敗が数年間のヘアスタイルに影響する
- プロの美容師は、オキシドール使用履歴のある髪への施術をリスク回避のため断ることがある
- ダメージを受けてしまった場合は、ヘマチン入りシャンプーやケラチン配合トリートメントで延命するしかない
- 美しい髪を守るためには、用途外の薬品を使わず、髪専用に開発された製品を使うことが鉄則である











